在宅勤務のメンタルヘルス

【リモートワークのメンタルヘルス】

 

在宅勤務(テレワーク・リモートワーク)におけるメンタルヘルスについて

精神科医・産業医が、そのリスクと課題、セルフケアについて解説します。

 

【目次】

(1)リモートワークにおけるメンタルヘルスとリスク

(2)コミュニケーションの減少が与えるストレス

(3)セルフケア

 

増加する孤独感・孤立感、漠然とした不安感への対応とは?

 

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(1)リモートワークにおけるメンタルヘルスとリスク

生活リズムが変化するリモートワーク

 

 コロナウイルスが世界に蔓延して1年以上が経過し、様々な職場でリモートワークが推奨されるようになりました。いきなりの変化に戸惑ってしまったという方も多いことでしょう。あまり知られていないことですが、厚生労働省はICTへの改変をコロナ禍以前の2017年から推奨していました。この働き方改革はやや時期が早まっただけで、元々日本の未来へ必要なものだと考えられていた形態なのです。テレワークを推奨しようとしていた最大の原因はフレキシブルなワークスタイルにあるでしょう。場所や時間にある程度自由がきく働き方は、子育て中のご夫婦や地方に住んでいる方の労働制限を取りのぞくことができ、より多くの人材の投入が可能となりました。通勤時間も削減できるため、今まで通勤に当てていた時間を副業や家族との時間、趣味に当てるなど今まで仕事でプライベートの時間が取れなかったという方の生活をより充実させることができるという点も、テレワークのいいことと言えるでしょう。

 

 一方で今までと違う仕事の形態に馴染めなかったという方も少なくありません。精神科の外来をしていても、リモートワークの代償を受けたと思われる患者さんが度々いらっしゃいます。リモートワークがメンタルヘルスを脅かす理由は大きく2つあります。

 

 1つ目は生活リズムが変わったこと。決まった時間に起きて、電車に乗り、会社につく。自分なりのリズムがあったはずですが、いきなりそれが変わってしまいました。気持ちの切り替えをする場所がないため、on-offの区別をつけるのが困難になってしまいます。仕事への集中力も下がってしまい、1つのタスクにかかる時間が増え、時間が有効活用できるはずが、さらに時間がかかるようになってしまっている方も多いようです。結果、残業が増え、さらに運動不足やストレスも加味して上手な睡眠が取れないなど、生活習慣の乱れに繋がります。生活習慣の乱れは、直接的にメンタルに影響します。

 

 2つ目はコミュニケーションが減少したこと。これは、会社での社員同士のコミュニケーションの減少と、日常生活での友人たちとのコミュニケーションの減少の両方が挙げられます。

 

(2)コミュニケーションの減少が与えるストレス

増加する孤独・孤立感

 

 このコミュニケーション不足は、リモートワークになった多くの会社で問題視されています。チャット形式でのやりとりを推奨することで、会話の透明性と気軽に相談できる環境づくりなどの対策を講じているようですが、対面とネット上では全く違います。会話したい人もそうでない人も同時に連絡が来るため、不快感につながることも少なくありません。普段からSNSに慣れている世代であっても、この違和感は大きいようですのでITが苦手な方達は、やりにくいことこの上ないはずです。

 

 リモートでのコミュニケーションで難しい点は、日数が浅く、信頼関係の構築ができていない場合に顕著に現れます。前から一緒に仕事をしていて気軽に質問できる間柄であれば、リモートに変わっても気軽に連絡できます。

(心理的安全性)

 

※心理的安全性:意見を述べたり、相談、指摘に対して、否定や拒絶される事なく安心してコミュニケーションの取れる状態、関係性

 

 しかし、新入社員と上司だった場合を想像してみてください。新入社員側は、わからないことだらけで上司に聞きたい場面は多々あるでしょう。会社であれば上司の機嫌が良さそうな時、時間に余裕がありそうな時を伺って直接聞けるところ、リモートとなると相手の状況が目視で判断できないため、今質問して良い状態なのか判断する初めの手段が直接連絡してみることになり、これは新入社員にとってかなりのハードルと言えます。

 

 一見辛いのは部下側のように思えますが、上司もこの状況はかなりやりにくいそうです。産業医をしているとオフラインでの部下への指導の難しさを指摘する声はかなり多く聞こえます。私たちは普段、話の内容だけではなく、話のトーンや声量、表情など様々な情報を加味してその時の状況から反応する言葉を導きます。しかし、スレッド上では、文面以外の情報は何もありません。オンラインとオフラインで同じ関係性を構築するのは、かなり困難と言って良いでしょう。

 

 また、コロナ禍で仕事も家、プライベートも外出を控えるようになると、直接人と接する機会がかなり少なくなってしまいます。2007年アメリカの科学誌「science」で発表された記事によると、人間が1日に発する単語量は15000語以上。リモートワークで一人暮らしの人はこれがほぼゼロになったという人もいます。人と会話しないことで、孤独感や孤立感

を感じ、いつのまにか漠然とした不安感が心を蝕んでいきます。恐ろしいのは、誰かが見ていてくれるわけでもないので自分でその心に気がつくまで対処ができないこと。

 

 そして、徐々にそういった状態になるので、最初は気がつくことができず、気がついたら仕事をしている間自然と涙がこみ上げて来る、朝全然起きられないと言った状態になってしまいます。そこで病院に来ていただければまだいいのですが、まだやれる。リモートで楽になっているはずなのにと自分を無理やり鼓舞し、トイレに行くのがやっとだという限界まできて、病院を受診される方も後をたちません。一方、家庭のある社員になると配偶者や子供との家庭内での距離感、仕事と家庭のバランスなどに戸惑いを隠せないようです。家族も慣れていないぶん、お互いにどうしたらいいのか分からないという相談内容は夫婦カウンセリングの1つのトピックになっています。

 

(3)セルフケア

生活習慣を整える

 

 外出して目一杯好きなことをする、友達と遊ぶということができない昨今、いかに自分をケアできるかは非常に重要な問題です。まず第一にオススメするのは、仕事とプライベートのon-offを作ること。仕事前の時間の使い方が大切になって来ます。通勤時間が少なくなったぶん、ギリギリまで寝て、部屋着のまま作業をしている方はいませんか?まずはここから改善しましょう。

 

 2007 年ドイツで発表されたサマータイムに起因する健康被害についての大規模調査では、1時間体内リズムを変更することに、体内の睡眠リズムが慣れるまで平均3週間かかり、特に夜型の人は4週間経っても睡眠の質は改善しなかったとの結果が出ています。(出典:日本睡眠学会)睡眠時間を十分に取ることは必要ですが、リモートにより起床時間にばらつきが出ることは逆に睡眠の質を悪くする可能性があります。リモートであっても、いつもと同じ時間に起床し、通勤にあてていた時間でストレッチをしたり、ラジオ体操をするなど体と脳をリフレッシュする時間にしましょう。

 

 また、仕事をする際の環境もとても大切です。ベッドの上などで姿勢の悪いまま仕事をしている方はいませんか?姿勢が悪いと背骨が圧迫され、背骨の隙間から出ている大事な神経を圧迫してしまい、自律神経が乱れやすくなります。自律神経は睡眠はもちろんのこと、胃腸や血圧など体の色々なことに影響を与えます。代謝にも関係するので、在宅で太った方の中には運動不足だけでなく自律神経の乱れが原因の方もいるかもしれません。他にも机の上は極力物を少なくしましょう。目につくところが散らかっていると集中力の低下につながります。デスクの散らかりは心の散らかりです。

 

 なかなか先が見えない世の中、不安はつきません。とにかく今できる範囲で最大限のことを、という気持ちで少しでも気持ちよくリモートライフを送りましょう。

 

(執筆:精神科医・産業医)

 


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